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道徳の時間に小説を読み聞かせする教師R

 

教師Rは50代後半だ。3年A組のクラス担任だ。Rが休んだ日に臨時教師が授業をした。学活の時間に教師Rが自分の恩師であること、以前いた小学校でいかに模範的な教師であったかを生徒たちに熱心に伝えていた。Rは生徒の親からも人気のある教師だった。

 

ある日の道徳の時間だった。教師Rは一冊の単行本を持っていた。教卓に座り落ち着いた比較的低い声で読みだした。生徒たちは突然のことだったが、教科書以外に何かが始まるのだと思い、静かに聞いていた。別に何をするとも言わなくても威厳のある教師だった。

 

その小説はある夫婦の物語であった。妻は病気で入院していた。夫は毎週かならずお見舞いにやってくる。妻を心配そうに声掛けし妻も自分をいたわる夫を気遣う。あたかもいい夫婦だ。しかし、妻は知っていた。この後、夫がどこへ行くのかを。夫は浮気していたのだった。妻は夫を見送った後、必ずレース編みを取り出し、もくもく編み続ける。

長い入院生活の後、妻は一次休暇をもらい家に戻る。妻らしく渾身の力をふりしぼり、掃除から洗濯、妻のつとめを成し遂げる。そして妻は短い命を全うし天国へ旅立った。

 

夫は妻の死をいいことに、愛人を家に連れて来、妻のいない家で生活をはじめる。ある日、愛人が部屋の整理をしていたら、みごとなレース編みがでてくる。愛人はあまりにも美しいそのレース編みを、自分の枕カバーにした。

 

夜、女はうめき声をあげる。横に寝ていた夫はうめき声に目が覚めた。なんとレースの編み目ひとつひとつに女の髪が入り込み、レース編みが勝手に動きだし、女の髪をひっぱる。女の髪は頭皮と一緒に剥がれ女はショック死してしまう。

 

男は妻が病床でいつもレース編みをしていたのを思い出した。女の怨念、執念を描いた恐ろしい小説。これを教師Rは道徳の時間に生徒たちに読み聞かせたのだ。道徳の教科書であるアリとキリギリスで複雑な気持ちになっていた子供達。ホラー以外のなにものでもなかった。翌日学校を休む生徒が多かったのは言うまでもない。

 

教師Rは毎日2輪の大型バイクで通勤してくる。電車とちがい、忙しい教師という仕事に加えて、バイク通勤では読書をする暇もない。だから道徳の時間を自分の読書時間にあてただろうか?このクラスの子供達は、夫婦関係の終末をある一冊の小説で知る事になったのだった。規定の道徳の概念にとらわれなさすぎる授業であった。