公から個の意識へ
”名こそ惜しけれ”という”己を律し公に仕える精神”は鎌倉時代の武士たちに芽生え、広がっていきます。
農民たちをも巻き込む公の意識
明治時代には郵便制度によって”名こそ惜しけれ”精神は、庶民にも広まります。郵便制度は農民がはじめて参加した公務として知られています。身近な人達のために→公のためにと、農民たちの考え方は変化していきます。
公の意識の全盛期
日清・日露戦争に勝利した日本人。欧米に向かっていきます。このとき国民の公への意識はさらに深まります。統帥権は天皇が持つ軍の最高指揮権ですが、これを軍が拡大解釈することで、日中事変など国家が暴徒化していきます。そして第二次世界大戦。”欲しがりません勝つまでは”など、個はださずに、公のためだけに国民は尽くします。このとき、公への意識は最高潮を迎えます。ですが日本は戦争に負け、焼け野原になってしまいます。このとき、日本人の公への意識は崩壊するのでした。
戦後、日本人は経済的成長によるめざましい復興で今の日本を築き上げてきました。
現代の公の意識
今、日本人の意識はどこにあるのでしょうか?日本人の公への意識はまだまだ強いのではないでしょうか。例えばオリンピック。金メダルまでの国のサポートや、報奨金が高い国と比較すると、日本は少ない方です。ですが選手たちは純粋に金メダルのために日々練習に取り組みます。そこには、国のためという意識が選手に強く表れています。そして選手たちを応援する私たちも、日本国のためにという強い意識をもって応援します。サッカーワールドカップもそうです。日本の終身雇用制度や年功序列も公の意識が反映されているのではないでしょうか。
これからは個の時代?
司馬遼太郎さんは、これからの日本人が世界に向かっていくには”個の意識”が必要だと言われています。公ではなく個として世界に発信していくことが必要なのだそうです。この思想は、司馬遼太郎さんが、情熱や団結を嫌っていたからということもありそうです。
黒の制服で統一された入社式、明治時代の結婚制度による女性は家事と育児をお家のためにしっかりこなすことが第一など、公の意識の縮小版ともいえるしきたりや習わし。
今、日本はグローバル人材を育てるために、英語だけでなく、様々なところで取組をしていますが、この取組こそ、公の意識から個の意識への転換の1つなのではないでしょうか。
企業の中にはすでに公の意識から個の意識への転換をはじめている会社もあります。
女性の世界進出のためにトレーニングを日ごろからするよう、社長みずから入社式で新人社員に啓蒙している資生堂などです。
では公の意識はムダなのでしょうか?公の意識による社員の団結があったから、戦後、日本はめざましい経済的成長を遂げられたということも言えます。
これからは公の意識で大切な部分と、個の意識で合理的な部分を融合させた意識をもつことが日本人には必要になってくるのではないでしょうか。